| イタセンパラ Acheilognathus longipinnis は、コイ科タナゴ亜科に属し、淀川水系、木曽川水系、富山平野の3地域に不連続に分布する。どの地域の個体群も生息確認が断片的、局所的であり、経時的に安定して生息しているとは言い難い状況にある。淀川および木曽川における本種の主な生息場所は、ワンド(タマリ)と呼ばれる湾状(池状)の水域であり、河川の営力で形成される河道内砂州上の河川水位以下の凹部や土砂堆積を受けた水制工裏部等に位置する。両河川とも低水路流水部の著しい河床低下に伴い、土砂堆積部の陸化が進行し、ワンドへの冠水頻度の低下、伏流・地下水流動の遮断、陸化部の乾燥化および樹林化が進行しており、それらがワンド環境を劣化させ、本種の生息に悪影響を与えていることが指摘されている。淀川では以上を改善すべく、堰湛水域では、水底への照度増加を期待した水深の浅いワンドの新設、流水域では干出ワンド部の地盤掘削による増水時冠水(撹乱)ワンドの再生、堰による水位運用等の対策が行われたが、いずれも本種の安定した定着にはいたっていない。土木工学的に本種の生息場所を創出するためには、生息ワンドと否生息ワンドの物理環境特性を、河川の氾濫、撹乱要因を含めて明らかにすることが求められている。 木曽川では、1958年よりイタセンパラの生息が報告されていたが、1994年の確認を最後に絶滅が暗示された。しかし近年の水辺の国勢調査で再確認されるに至っている。これ以降、木曽川では、各省庁による保全への活動が活発化しており、木曽川イタセンパラ事業環境検討会(国土交通省)、イタセンパラ生息域外保全検討会(環境省)、木曽川イタセンパラ保護協議会(産官学共同)が組織され、生息域外保全、生息環境の保全・創出(域内保全)、外来生物対策、密漁対策、啓発・環境教育活動が検討、実施されている。その中で演者が実施している研究のアウトプットとしては、氾濫原環境の再生手法に含有される、域内保全のための生息場ワンドの物理環境特性の把握と創出方法の提案も大きな命題として位置づけられている。 木曽川における本種の生息エリアには10地区約160箇所のワンドが存在するが、1970-80年代調査(既存調査)以降、それらの多くのワンドを対象とした本種の生息分布調査はなされていない。演者らは、2007年から本種の生息場所特性を明らかにすることを目的として、計140箇所のワンドを対象に調査を継続している(本調査)。調査手法や頻度が異なることから厳密な比較はできないが、既存調査と本調査における本種生息ワンド数割合には大きな変化はみられていない。しかし、地区ごとにみると、生息が全く確認されなくなった、もしくは確認ワンドが激減している地区がみられ、当該地区の環境の変遷を勘案すると、これは生息環境の劣化に起因する可能性が高い。本発表では本種の生息ステージのうち、稚魚浮上時期に着目し、稚魚が経年的に確認されたワンド(繁殖ワンド)と生息が確認されなかったワンド(否繁殖ワンド)との環境特性の相違、さらに、稚魚確認箇所の微生息場所特性について報告する。解析には、水深、流速、河床材料といった調査時(平水時)に取得した物理要因に加えて、前者の解析には、冠水頻度、出水時の掃流力といった氾濫物理要因や二枚貝の生息密度を、後者には植生カバーと光量子との関係を要因に加えた。考察では、ワンドの環境改善方法の有効性と本種生息ワンド再生のシナリオについても整理してみたい。 |