本研究では、土石流が発生したものの頻発しない渓流で現地観測を行い、土石流発生後に残存した不安定土砂の短期的な土砂移動実態を明らかにするとともに、土砂移動の規模等を推定する際に重要な情報となるマニングの粗度係数の算出を試みた。観測では平成26 年広島豪雨により土石流が発生した堆積岩(泥岩)地域を対象とした。2015 年10 月~2016 年12 月までの観測により、礫等の土砂移動と細粒分を主体とする土砂移動は繰り返し発生した。単一の降雨量と土砂移動との関係を見ると、礫等の土砂移動の発生条件は、それぞれ累積雨量は20mm 以上、時間雨量は6mm/h 以上、10 分間雨量は2.5mm/10min 以上であった。長期間降雨と短期間降雨を指標とすると、累積雨量が20mm 以下で、時間雨量が5mm 以下もしくは10分間雨量が2mm/10min 以下では土砂移動は発生しなかった。土砂移動状況の観測結果は、既往の土砂移動領域区分(高橋、1982)に基づいて整理した。粗度係数は、土砂移動時の流量の増減とともに時系列的に変動し、ピーク流量時は0.18 を示した。この値は、山地流路における粗度係数の概略値(社団法人土木学会、2001)よりも大きい傾向であった。今回得られた粗度係数は、流路の構成土砂の粒径に対し水深が比較的小さい流況の観測結果に基づいたものであるため、今後は水深が大きい流況での観測データを蓄積する必要がある。 |