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発表 山岳トンネルにおける変状の発生傾向と地山性状の相関に関する考察

作成年度 2023 年度
論文名 山岳トンネルにおける変状の発生傾向と地山性状の相関に関する考察
論文名(和訳)
論文副題
発表会 第50回岩盤力学に関するシンポジウム
誌名
巻・号・回 50
発表年月日 2024/01/10 ~ 2024/01/12
所属研究室/機関名 著者名(英名)
国土交通省 九州地方整備局 八代復興事務所棗 拓史(NATSUME Takuto)
東京都立大学中里 倫子(NAKAZATO Rinko)
東京都立大学河田 皓介(KAWATA Kosuke)
東京都立大学砂金 伸治(ISAGO Nobuharu)
東日本高速道路株式会社大津 敏郎(OTSU Toshiro)
トンネルチーム日下 敦(KUSAKA Atsushi)
抄録
近年,供用中の山岳トンネルにおいて,盤ぶくれの発生が報告される事例が増加している例えば1).盤ぶくれは車両の安全な走行に支障をきたすことに加え,長期間放置することでトンネル構造の健全性や安定性に悪影響を及ぼす恐れがあり,耐荷力の向上等による対策が求められる.平成9年10月の設計要領の改訂以前に建設された高速道路トンネルでは,施工時の地山状態が良好であった等の理由によりインバートが設置されていない区間が多く存在する.一方,供用後の地山の劣化等により変状が発生した事例も報告され,各地でインバートの新設や再設置等の対策が行われつつある2).今後,それらと類似する条件において,盤ぶくれの発生が懸念されるトンネルも多く,予防的な観点から,順次対策工を実施していくことが重要であると考えられる.一方で,このような事例が各地で増加し続けた場合,維持管理に携わる事業体の負担が大きくなり,トンネル全体で考えた場合の健全性を維持することが困難になることも推測される.そのため,変状の要因を推測し,対策を実施する優先区間を適切に見極め,効率的に補修や補強等の更新を展開していくことが求められている. 盤ぶくれの発生メカニズムについては,アイダンら3)や嶋本ら4)が言及しているように,掘削に伴う二次応力が周辺の地山強度を上回って塑性化し,著しい押し出しが生じて支保工や覆工に変状が生じるスクイージングと呼ばれる現象が挙げられる.また,軟岩中に含まれる膨張性粘土鉱物の吸水による底面間隔(結晶の底面同士の間隔)の拡大が主な原因となり,路盤部に存在する膨張性粘土鉱物が吸水膨張することで路盤が隆起する現象であるスウェリングもメカニズムのひとつとして考えられており,大きく二分化されると考えられている.しかし,膨潤性粘土鉱物を含む地山は低強度のため僅かな応力増加でせん断破壊をもたらし,そこへ地下水が浸透し粘土鉱物が吸水膨張して,さらに地山がトンネル内空へ押し出ると考えられることから,日本における膨張性トンネルの実態は,スウェリングによる地山の膨張はスクイージングによる地山の変形の中に含まれて区別できない場合がほとんどであると推察されている.また,施工時の内空変位量が小さかったにも関わらず,供用中に緩やかに変形が進行し,建設後長期の時間経過後に変状が顕在化するケースについては,地下水の影響によるものが多いと経験的に考えられているが,直接的な要因やメカニズムは未だ不明確な点も多い. また,これまでの変状事例の中には,盤ぶくれによってインバートや路盤部の破壊が引き起こされるケースに加え,左右の側壁で縦断方向にひび割れが生じる等,様々な要因が複合的に作用して変状が発生していると推測される事例も存在する5). このことから,盤ぶくれに限らず,変状の発生によって対策を求められる事例の増加が懸念されている. 各地のトンネルで変状の発生が相次いでいることを受け,小林ら2)は盤ぶくれ発生箇所の岩種延長比率,供用年数,土被り頻度分布,一軸圧縮強さ等の地山性状等を分析し,湧水等による地山の吸水膨張や粘土鉱物の膨潤等によって一軸圧縮強さが低下することで塑性領域が進展し変状が発生していることが,供用トンネルの盤ぶくれ発生要因であると推測し,この現象が概ね20年以内に顕在化していることを明らかにしている.また,小林ら6)は,盤ぶくれが確認されたトンネルにおける施工時の内空変位量測定(A計測)結果や支保パターンの実績,切羽観察における湧水量,水による劣化の項目と盤ぶくれ箇所の相関を分析し,完成後に盤ぶくれが生じた事例のほとんどが浸水崩壊度:Dまたは地山強度比≦4の範囲に分布することに加え,盤ぶくれには地山の性状と施工後の環境変化による地山の強度低下が影響した可能性を確認している.以上のように,変状の発生状況と地山の性状に関連がある可能性は明らかになってきているが,実際には様々な要因が複合的に作用しており,一意的に変状原因を特定することは難しく,引き続き事例の分析結果の蓄積が求められている. こうした背景を踏まえて著者らは,変状が発生したトンネルにおける施工時の観察記録やA計測結果と,供用後の詳細点検結果に加え,地質縦断図等による地質の縦横断的な分布を考慮した線的な分析を実施し,それらの相関関係についてマクロ的に考察した.
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