バーブ(barb)とは、「(矢じり・釣り針の)あご、かかり、戻り、さかとげ」を意味する英単語であり、「バーブ工」は、川の流れに対して、河岸から上流側に向けて(さかとげのように)突き出して設置する、高さの低い水制の一種で、流れによって運ばれてくる砂を溜めて寄り洲を形成することを目的とした河川工法である。自然共生研究センターでは、バーブ工の「寄り洲を形成する機能」に着目して、調査・研究を進めている。 日本の中小河川の多くは、高度成長期以降に改修が進められ、洪水を溢れさせずに流すために、段階的に河床を掘り下げ、護岸を積み、その結果として、台形を逆さにした狭くて深い断面形の川が多くみられるようになっている。改修後の流速と掃流力の増加によって改修後に河床低下が進んだ川では、岩盤が露出したり、掘削直後の時点で河床に固く締め固まった地層が露出したりするなどして、瀬淵が失われた川が、日本の各地にみられる。また、そのような川では、河床が平坦で川幅いっぱいに水が流れているために、護岸法面に水際が接する形になっており、自然河岸と比べて水際部が非常に単調である。 平成22年8月に通知された「中小河川に関する河道計画の技術基準について」と、その解説として平成23年10月に発刊された「多自然川づくりポイントブックⅢ」では、河岸・水際部の河川景観及び自然環境面での機能が十分発揮されるようにするため、護岸の設置を必要最小限とするとともに、露出する護岸の前面には自然河岸を形成して、水際部の環境機能を高めることを基本方針の一つとしている。 このようなことから、バーブ工は、洪水の流れを阻害することなく、護岸の前面に土砂を溜めて寄り洲を作ることができ、特に、改修済みの中小河川における流速水深や河床材料の多様性を、安価に回復できる可能性を持つ工法として、注目している。本稿では、新しい河川工法である「バーブ工法」を紹介するとともに、バーブ工が寄り洲を形成する機構を解明することを目的に実施した移動床水理実験の成果を中心に、実用化に向けた取り組みを報告する。 |