窒素やリンなどの栄養塩、水温、濁度(光条件)等は、河川生態系の一次生産などを規定する重要な要因の一つである。通常、これらの水質要因は上流から下流にかけて穏やかに変化し、それぞれの流程の生態系を特徴づけている。しかしながら、流程内にダム及びダム湖が存在することで、水質の変化をもたらす。 ダム及びダム湖の存在による水質への影響を把握することは、ダム下流河川生態系の保全にとって重要である。しかし、この水質の変化を把握する際、スナップショット的な短期データを用いると、水質測定時の瞬間的な環境の変化を反映した値になっている可能性があり、長期的なデータを用いることが必要である。また、水質変化のパターンには、ダムの運用方法(ダムの管理目的、貯水容量や回転率)、ダムの位置(流程(流域面積))に加え、集水域の特徴(気候、土地利用など)なども影響することから、広域的なデータを用いることが必要である。 つまり、水質に対するダム及びダム湖の影響を検証するためには、長期・広域データに基づく解析が必要である。しかし、日本国内における、長期・広域データに基づいた解析は少ない。 そこで、本研究では、日本全国における主要なダム(図1)のうち、ダムの上下流で10年以上にわたって継続的に観測されたデータを用いて、水質(窒素、リン、水温、濁度等)に対するダムの影響について検討した。 |