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発表 東日本大震災前後における河川堤防の浅部物性変動

作成年度 2012 年度
論文名 東日本大震災前後における河川堤防の浅部物性変動
論文名(和訳)
論文副題
発表会 日本地球惑星科学連合2012年大会
誌名 日本地球惑星科学連合2012年大会予稿集
巻・号・回 STT56-05
発表年月日 2012/05/01
所属研究室/機関名 著者名(英名)
地質・地盤研究グループ稲崎 富士
抄録
筆者らは河川堤防の安全性評価のための原位置調査手法として,ランドストリーマー方式高精度表面波探査と,牽引式比抵抗探査あるいはスリングラム法電磁探査を組み合わせた「統合物理探査」を提唱し,さらにその普及のための技術情報のとりまとめ・開示を進めてきた(稲崎,2006;稲崎ほか2010).これまでに14 河川系39 測線区間47km において実証調査を行ない,堤防縦断方向に存在する数10m 規模の異常部を検出することが可能であることを明らかにしてきた.開発した統合物理探査の解析にあたっては,計測物性値から堤防および基礎地盤の浸透に対する安全性を評価することを前提としていたが,S 波速度分布を求めることから,当初から地震に対する安全性も評価することが可能であることを指摘していた(稲崎ほか,2008).2011 年3 月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震による東日本大震災では,東北地方のみならず関東地方でも多くの堤防区間で深刻な被災が発生したが,そのなかには地震以前に統合物理探査を適用していた堤防区間も含まれていた.そこで同一区間において新たに同一条件で統合探査を実施し地震前の探査結果と比較検討した.比較探査を実施したのは小貝川左岸35km 付近の約1.8km の区間と江戸川左岸58km 付近約3km の区間の2 区間である.前者では旧河道横断部約80m の区間で堤防天端が最大70cm 沈下し,のり尻部に数条の縦断クラックが発生し小規模な噴砂も認められた.後者では堤体川表側に数条のクラックが発生し,約200m の区間で堤体のり部が最大1.5m すべり崩壊した.この2 区間では2005 年9 月に統合物理探査を適用し,これらの地震被災区間に物性的異常部を見出していた.比較探査は2011 年7 月から8 月にかけて実施した.その結果,小貝川左岸35km 付近の地震被災区間は相対的に低S波速度かつ低比抵抗で特徴づけられること,地震前後においてもその物性的特徴は共通していることがわかった.また測線全区間において,堤体部基礎地盤部ともS 波速度が地震後に低下する傾向が認められた.地震による表層部の剛性率低下を捉えているとの解釈も可能である.一方比抵抗値は飽和帯である基礎地盤部ではほとんど変化していなかったが,堤体部では全域において比抵抗値が高くなる傾向が認められた.不飽和帯の比抵抗は湿潤状態の変化の影響を受けやすいことが知られている.堤体部の比抵抗変化はそれを捉えたものと解釈することができる.江戸川左岸58km 付近の被災は,地震前の探査で堤体下半に認められた高比抵抗異常区間の一部で発生した.この異常区間はS 波速度が相対的に低く,低S 波速度かつ高比抵抗で特徴づけることができる.堤体上半部においてはS 波速度,比抵抗とも地震前後においてほぼ同じであり明瞭な変化は認められなかった.一方堤体下半部ではS 波速度構造,比抵抗構造とも顕著な変動が認められた.特に被災区間を含む約600m の区間で比抵抗値が大きく低下していた.なおこの探査区間では堤防高さが10m 以上あり,基礎地盤部の物性情報はわずかしか得られていない.また地震を挟んだ探査の間に,堤体の川表側に全測線区間にわたって腹付け盛土が施工されていた.地震時の法すべりはこの新規盛土部内において発生している.探査結果からは堤体内部の不均質物性構造が法すべりの原因となった可能性が示唆された.
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