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論文投稿 ダム下流域における濁水の発生状況と堆砂対策に伴う高濃度濁水が付着藻類に及ぼす影響

作成年度 2012 年度
論文名 ダム下流域における濁水の発生状況と堆砂対策に伴う高濃度濁水が付着藻類に及ぼす影響
論文名(和訳)
論文副題
発表会 ダム技術(Vol324号,27-34)
誌名 ダム技術
巻・号・回 324
発表年月日 2013/02/01
所属研究室/機関名 著者名(英名)
独立行政法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター森照貴
独立行政法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター小野田幸生
独立行政法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター宮川幸雄
独立行政法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター加藤康充
独立行政法人土木研究所水環境研究グループ河川生態チーム萱場祐一
抄録
ダムは水を貯めることで治水・利水面での機能を発揮するが、同時に上流から流入してくる多くの土砂をダム湖内に留める。その結果、ダム湖内には土砂が堆積し、貯水機能の低下など様々な問題が生じる恐れがある。また、本来は流下するはずの土砂がダムにより扞止され、ダム下流域へ供給されなくなる。そのため、ダム下流域の河床では、流下しやすい細粒土砂が欠乏することが多く、河床の変化に伴う河川生態系への影響が懸念されている。つまり、治水・利水機能を維持し、ダム下流域における生態系を健全に維持するためには、ダム湖における適切な土砂管理が不可欠である。 近年、ダム湖における土砂の堆砂対策と、ダム下流域における河床環境の改善・維持のために、様々な対策が実施・検討されている。例えば、美和ダムや旭ダムでは「排砂バイパス」を用いることで、洪水時に発生する大量の土砂を、ダム下流域へバイパスさせている。この対策により、ダム湖に流入する洪水時の土砂を、ダム湖ではなく、ダム下流域に直接流下させることが可能となる。また、出し平ダムなどでは、ダム湖の水位を低下させることで、湖底に堆積している土砂を排出する「フラッシング排砂」が実施されている。他にも、三春ダムなど20以上ものダムでは、ダム湖に堆砂した土砂をダム下流域へと運搬・仮置きし、洪水時に流下させる「土砂還元」が行われている。一方、水頭差を利用することで、堆積した土砂を吸引排砂する方法の実用化が、矢作ダムで検討されている。 これらの手法は恒久的な堆砂対策として注目を集めているが、対策の実施に伴い、シルトなどの細粒土砂を大量に含む高濃度濁水がダム下流へと流下する場合がある。排砂時の高濃度濁水は自然状態で発生する洪水に比べ、浮遊物質(Suspended solids, SS)濃度のレベルやタイミング、濁水に含まれる粒度組成に差異が見られ、自然現象とは異なる特徴を有する。そのため、堆砂対策によって発生する濁水が、河川生態系に影響を及ぼす可能性があり、ダム下流域における河川生態系への影響評価が課題として挙げられている。 堆砂対策の実施時の他にも、ダム湖からダム下流域へと濁水が流下する場合がある。洪水時に流入した濁水がダム湖内で貯留されることで、ダム堤体から放流される水が、洪水後も長期にわたって濁水化することがある。これは、ダム湖に流入した細粒土砂が、沈降することなくダム湖内を浮遊し続けるためである。また、大気温の変化に起因して、ダム湖が長期的に濁水化する場合がある。ダム湖の表層の水温が、季節に応じて上昇もしくは低下することにより、表層水の密度と底層水の密度との差が等しくなる、もしくは表層水の方が重くなる場合がある。この時、ダム湖内は表層と底層が混合する循環状態となり、底層に存在していた高濃度濁水が浮上することで、ダム湖全体が濁水化する。いずれの場合も、細粒土砂が多いほど、土砂の粒径が細かいほど、そしてダム湖の回転率が小さいほど長期化しやすく、6か月近く濁水が続くこともある。このような濁水の長期化についても、高濃度濁水と同様に河川生態系への影響が懸念されているものの、個別ダムに関する報告があるのみで、全国的な傾向についての知見が整理されていないのが現状である。 濁水が河川生態系に及ぼす影響については、魚類や底生動物、底生性付着藻類(以下、付着藻類)など様々な分類群を対象に研究が進められ、これまでに、多くの生物に対して濁水の影響が報告されている。なかでも、付着藻類は着岩性であるため、魚類や底生動物のように濁りなどのストレスから行動回避することができず、影響を受けやすい分類群だと考えられる。さらに、付着藻類は、アユやヤマトビケラ等の藻食性生物の餌資源であり、河川生態系の重要なエネルギー基盤である。そのため、ダム湖における適切な土砂管理・濁水管理を実施するうえで、付着藻類への影響を理解する必要がある。しかし、既存の知見をダム下流域の河川生態系に適用するには、流速の再現性などにおいて問題点が存在する。 そこで、本稿ではダム堤体が存在する国内の主要な河川を対象に、堆砂対策を実施した時の濁水濃度や、平水時の濁水濃度を整理した結果を最初に報告する。その後、濁水の影響に関して既存の知見では不足している点について、実験結果を報告する。具体的には、恒久的な堆砂対策を実施する際、高流速が想定されることから、高濃度濁水が付着藻類に及ぼす影響について、流速に依存してどのように変化するかを検証した実験について報告する。
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