イシガイ科二枚貝(イシガイ類)は幼生から稚貝への変態過程で魚類の鰭や鰓に寄生するため、個体群の維持には宿主となる魚類の同所的な存在が欠かせない。本研究では、農業用の水路網において、宿主魚類の移動に影響する縦断的な連続性とイシガイ類個体群の関係について検討を行った。36本の水路を調査対象とした。各水路において調査区(水路幅の10倍の長さの区間を同20倍の間隔で2つ)を設定し、イシガイ類と魚類の採捕を行った。また、調査区から宿主魚類のソースとなり得る河川もしくは幹線排水路までの距離を測定するとともに、その間に存在する30㎝以上の落差を持つ段差の高さおよび数を記録した。調査区におけるイシガイ類の生息有無を従属変数、段差の数、最大高さ、有無、ソースまでの距離を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。段差の数と有無については、着目する段差の高さを30㎝以上、40㎝以上、50㎝以上と変えて集計し、解析に用いた。その結果、イシガイ類の生息有無は、30㎝以上の段差の数のみから有意な負の影響を受けていることが示された。これは、宿主魚類の遡上が30~40㎝の段差によって阻害されるケースがあり、上流側におけるイシガイ類個体群の再生産や他の水路からの個体の移入が不可能になった結果として、個体群が劣化したことを示唆する。本調査で採捕された宿主魚類の体サイズは、水路における既往研究と同様に小さく(<10㎝)、30㎝の段差を飛び越えることは困難であると考えられた。また、出水時に生じる水位上昇と流速の増大は、それぞれ宿主魚類の遡上に対しプラスとマイナスに作用すると考えられるが、それらの効果を織り込んだ結果として、30~40㎝の段差が遡上の制限要因となったと考えられる。 |