河川堤防は住民の生命と資産を洪水から防御する極めて重要な防災構造物である。現在の長大な堤防の多くは,古くから逐次強化を重ねてきた長い治水の歴史の産物であり,これまでの整備によって,堤防延長や堤防断面の確保については相当の整備がなされてきている。しかしながら,その構造は主に過去の被災などの経験に基づいて定められてきたものであり,いわゆる形状規定方式を基本とされていた。堤防は洪水が氾濫区域に溢水することを防止するための施設であり,そのためには洪水等によって生じる浸透,侵食作用,さらに地震に対して洪水等により堤防がその機能を喪失または低下することを回避しなければならない。一方で,近年の被災事例をみても,洪水や地震のたびに大小の被害が発生しており,安全性の確保のために計画的な補強対策が必要とされている。堤防に求められる安全に関わる機能として,①耐浸透機能,②耐侵食機能,③耐震機能とされており1),これらについて所要の機能を確保するため,浸透及び浸食に対する安全性点検やレベル2地震動に対する安全性の照査,対策が進められているところである。これら安全性の照査や対策にあたっては,近年の地盤工学の知見が数多く実務に適用されている。こうした背景を受けて,本講座では,河川堤防のうち土堤を対象として,河川堤防の整備の歴史,過去の被害事例,堤防の基本的な構造,要求される機能を紹介したうえで,浸透,浸食や地震時の崩壊防止のための評価法,対策,最先端の研究事例等について紹介する。 |