河川における濁水の発生は、自然および人為的要因によって生じる代表的なストレス要因の1つである。高濃度の濁水は、魚類の鰓組織の損傷や採餌効率の低下といった生理から生態まで様々なレベルで影響を与える。そのため、濁水発生時にどのような環境が魚類の避難場所として機能するのかを理解することは河川生態系の保全を考える上でも重要である。河岸に繁茂した水生植物帯は周囲に比べて水の流れが緩やかなため、濁水中の土砂成分が沈降し、濁水ストレスに対する避難場所を魚類に提供している可能性がある。本研究ではこの可能性を検証するために、自然共生研究センター内を流れる2本の実験河川において、一方の河川に濁水を人工的に発生させ、魚類による植物帯の利用状況を調査した。各河川の流路に沿って、植物パッチと植物なしパッチを6セット設置し、濁水の発生前、発生時および解消後の魚類の個体数変化を調べた。その結果、魚類の総生息密度は濁水発生時の植物パッチでのみ有意な上昇が見られ、最大で約8倍高くなった。このような傾向は対照河川や植物なしパッチにおいては認められなかった。これらの結果は、濁水の発生時に水際植生が魚類の避難場所として機能していることを示唆しており、魚類の生息環境保全における水際植生の重要性を裏付けるものである。 |