近年,日本の多くの河川において河道内に樹木が繁茂し樹林が形成される樹林化が進行している.河道内の樹林は出水時に洪水を安全に流下させる妨げや流木発生の一因でもあり,また出水かく乱に適応した河川固有の生物種の減少につながるなど,治水安全上・生態系保全上双方において問題となっている.河川管理者らは,河道内樹木を伐採・除根するなどの管理を行っているが,再び樹林化することも少なくない.本研究で対象としたハリエンジュ(ニセアカシア Robinia pseudoacacia)は,北アメリカ原産の落葉高木で,外来種でもある.外来種である本種は種子からの繁殖だけでなく,株や根,枝などから萌芽する特性をもつ.そのため,出水時などに上流から種子や枝・根などの形で流下してきたものが定着し,拡大していると考えられるものもあり,樹林化が問題となっているエリアだけでなく,上流域における主たる供給源の当該樹種に対しても適切な措置をおこなうことにより,下流域の樹林化の速度を低減できる可能性がある.そこで,本研究では遺伝情報を用いて流域内におけるハリエンジュの動向を推定することを試みた.ここに,ハリエンジュが外来種であること,株や枝などから萌芽するクローンが存在すること,対象地域が同一水系内という限られた範囲であることから,対象とする集団内の遺伝的差異が小さいことが想定されたため,分析においてはマイクロサテライト解析およびAFLP解析の双方を用い比較した. |