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論文投稿 高水敷掘削による氾濫原の再生は可能か? ~自然堤防帯を例として~

作成年度 2014 年度
論文名 高水敷掘削による氾濫原の再生は可能か? ~自然堤防帯を例として~
論文名(和訳)
論文副題
発表会
誌名 応用生態工学2015 VOL.17 NO.2
巻・号・回 VOL.17 NO.2
発表年月日 2015/03/01
所属研究室/機関名 著者名(英名)
独立行政法人 土木研究所 水環境研究グループ 自然共生研究センター永山滋也
独立行政法人 土木研究所 水環境研究グループ 自然共生研究センター原田守啓
独立行政法人 土木研究所 水環境研究グループ 自然共生研究センター萱場祐一
抄録
 氾濫原は,増水時に河川から溢れた流水中の土砂が堆積することで形成されたJ易であり,生物多様性にとって重要な役割を担っている.例えば,氾濫原に形成される変化に富んだ微地形は,冠水の頻度や強度といった洪水撹乱に関連して異なる物理・水文環境を創り出し,氾酷原における多様な陸生・水生生物の生息を可能としている(Junket .la 1989 ;R obinson et .la 2002 ;T ockner &Stanford 2002). また,氾濫原には栄養塩や有機物を貯留し下流への急激な流出を抑える効果があり,それによって氾舵原における一次生産が増大するなど,分解過程を含む生態系機能が影響を受ける(Bayley1995 ;Tockner et a l. 1999).                                                 扇状地の下流側に位置L 地形勾配が緩やかで、ある自然堤防帯では,本来, 自然堤防と後背混地からなる広大な氾濫原が形成される. 日本では,粘土に近代以降,後背湿地の開発に伴い,河川沿いには縦断的に連続した堤防が整備されてきた.これにより現在,河川の洪水撹乱によって特徴付けられる氾酷原は,ほ堤外地(堤防の河川側)に限定されている.また,全国各地の主要河川では,複合的な人為の影響によって河床低ドが生じてきた(藤田ほか2009) 河床低下によって,本JIと氾慌原陸域の比高は拡大し相対的に高くなった陸域では,洪水撹乱の頻度や強度の低下,それに伴う樹林化が進行し氾濫原環境が変化した(Nakamuraet a 1. 2006 ;根岸ほか2008) .これにより,堤外地の氾濫原に依存する生物群集も,直接,間接的に影響を受けている(Negishiet a 1.2012,2 014) .                                 日本の平野部を流れる大河川では,洪水時の水位低下を目的とした事業メニューのーっとして,高水敷の掘削が多く計画,実施されている高水敷掘削は,洪水撹乱を受けやすい低い土地を造成する.そのため,扇状地を流れるやや急勾配な河川では,掘削屈における洪水時の物理的な境乱力が高まり,牒河原を再生・維持する手段となり得る.一方,自然堤防帯を流れる緩勾配な河川では,掘削面の冠水頻度が高まり,湿地的な環境を再生・維持する手段となり得る.このように,高水敷掘削は氾濫原環境の再生と親和性の高い事業と言うことができ,近年,治水と環境を両立する事業として実際の取り組みも見られる(Nakamuraet a 1. 2006 ;海野ほか2006;Osugi et .1a2007 ;A kamatsu et . 1a2008 ;石川|ほか2010;Katayama et a 1. 2010 ;佐川ほか2011).堤外地の氾濫原における生態系の変質や希少生物の保全(Takenakaet.1a 1996 ;竹内・藤田1998;W ashitani 2007 ;根岸ほか2008 ;北+す2008;イ左J1ほか2011;N egishi et .1a 2012)といった課題を前に,今後,この取り組みは益々盛んになるものと考えられる.            氾i監原に生息する生物は, 自然な洪水撹乱に爆された原生的な氾濫原に,進化的に適応した生活史を獲得している(例えば, Lewis et a 1. 2000). しかし堤外地における氾濫原(掘削地を含む)の洪水撹乱は,その空間的な狭さや直線化に伴う勾配の増大のために,原生的な氾jEt原とは大きく異なった特性を持つことが予想される.それゆえ,堤外地において,氾濫原に適応した生物とそれらによって形成される独特の生態系を保全・再生していくためには,洪水撹乱の特性に関する原生的な氾故原との違いや,その違いを生み出した歴史的な氾濫原の変遷ならびに地形構造を基本的な認識として持っておくことが必要であろう.                                         そこで本論では,自然堤防帯を対象として,まず原生的な氾濫原と堤外地における氾i監原の構造について記述し,続いて,比較的原生的な状態が残っていた明治期から現在に至る氾濫原の変遷を,特に水域環境の変化に着目して例示したまた,洪水撹乱に関連する項目として,冠水頻度,洪水時の作用外力,土砂の堆積速度に焦点をあて,原生的な氾i監原と堤外地の氾濫原を比較した最後に,以上の結果から得られる視座に基づき,高水敷掘削を主な手段とした堤外地における氾濫原の保全・再生に資する一つの管理手法を提示したなお,自然堤防帯は,地形学分野では,氾濫原(地帯),蛇行原などとu乎ばれる場合もある(熊木ほか1995;小野2012).また,河川工学分野で使われるセグメント区分(il-l本2010)ではセグメント2に相当する.
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