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発表 北海道空知地方の農業用排水路におけるコバノヒルムシロの生育状況について

作成年度 2014 年度
論文名 北海道空知地方の農業用排水路におけるコバノヒルムシロの生育状況について
論文名(和訳)
論文副題
発表会 水草研究会第36回全国集会(島根)
誌名 水草研究会36回全国集会要旨集
巻・号・回
発表年月日 2014/08/23 ~ 2014/08/24
所属研究室/機関名 著者名(英名)
河川生態チーム片桐浩司
河川生態チーム萱場祐一
抄録
1. はじめに コバノヒルムシロ Potamogeton cristatus Regel et Maackは,ヒルムシロ科ヒルムシロ属の多年生水草である.本種の国内における主な分布地は西日本とされており,北日本では宮城県,福島県,茨城県,新潟県から報告されている.国内における本種の分布の北限は長らく宮城県とされてきたが,2000年9月に北海道岩見沢市の上幌向地区において本種が採集され,北海道にも自生していることが確認された(持田ほか 2004).さらに北海道内各地の標本を検討した結果,1901年に札幌の「モイワ麓池中」で本種が採集されており,2000年の発見は,北海道における本種の再発見であることがわかった. その後の調査により,北海道岩見沢市における本種の数か所の自生地は,いずれも農業排水路であることが確認された.農業排水路は湿地や水域にすむ生物の数少ないハビタットのひとつとして機能しているが,近年の圃場整備による区画の拡大や水路のコンクリート化により,農耕地周辺で湿地性の生きものが著しく減少していることが報告されている.とくに水生植物の生育にとっては,定着基盤をもつ素掘りの土水路が好ましいことはわかっているものの,コンクリート化された圃場整備後の農業排水路で,どのような環境が水生植物の生育に適しているのかについては,これまでほとんど研究が行われていない. 以上の背景から,本研究では,過去に圃場整備がなされた岩見沢市の農業用排水路を対象として,コバノヒルムシロをはじめとする水生植物が生育する環境条件を明らかにするとともに,水の由来の別などで農業用排水路の水生植物の分布に違いがみられるかについて検討した. 2. 方法 コバノヒルムシロを含む水生植物が生育する環境条件を明らかにするため,本種の生育地と同一系統の用水によって導水されているエリアの用水路および排水路を対象として調査を実施した.用排水路に成立する水生植物群落の代表的な箇所(44地点)に1×1㎡のコドラートを設置し,水生植物の被度(%)と,水深,泥厚,pH,電気伝導度,水温,溶存酸素量,流速,土地利用(水田,小麦畑,その他の畑)を記録した. さらに本エリアの用排水路の接続状況を把握するため,エリア全域を踏査し,用水路,幹線排水路,支線排水路の別を記録するとともに,流れの方向についても記録した.また用水の一部が排水路に流入する箇所や,水が湧出する箇所を図上にプロットした.得られた種組成データからDCAにより調査区を序列化し,DCAの各軸と環境因子との相関分析を行うことにより,各植物群落が成立する条件を明らかにした. 本エリアを含むより広い範囲で水生植物の分布状況を把握し,用水路,排水路,近隣の沼,河川で水生植物相を比較した.また同様に,水の由来(石狩川,幾春別川,北海幹線用水路)の別で水生植物相を比較した.コバノヒルムシロについては,2014年の分布域を2005年の結果と比較し,分布状況の変化について把握した. 調査は,本地域の灌漑期に相当する6月下旬から7月上旬に実施した.3. 結果 3-1水生植物の生育条件 種組成データによるDCAの各軸と環境因子との相関分析の結果から、水生植物の種数や植被が低い水路の特徴として,流れが速く,水底に泥が堆積しておらず,水温が低いことがあげられた.すべての用水路と一部の支線排水路はこれらに該当した. また支線排水路のうち,水深が浅く,DOが低い環境にヘラオモダカなどの抽水植物群落が成立していた.コバノヒルムシロは,水深が深く,DOが高く,流速が遅く,泥が厚く堆積している環境に生育していることがわかった.本種は,湧水が流入する箇所の近傍にみられ,湧水が流入し,年間を通じて安定した水の供給があることが,本種の生育にとって重要な条件のひとつになっていると考えられる. 水路の種類別では,素掘り水路と幹線排水路で種数が多かった.一方,植被率は支線排水路でもっとも高かった.また周辺の土地利用では,水田,小麦畑,その他の畑で種数に違いがみられなかったが,植被率は水田で低く,その他の畑で高かった. 3-2 水生植物の確認状況 調査の結果,用水路で1種,排水路で28種,近隣の沼で20種,河川で11種,合計で32種の水生植物が確認された.これらのうち排水路のみで確認された種は,コバノヒルムシロを含む5種であった.圃場整備後,排水路は水生植物の重要な生育環境のひとつとして機能していることが示唆された.水の由来の別では,排水路の28種のうち,6種が1地区のみで確認されたが,多くの種は由来によらず広く分布していた. コバノヒルムシロの2005年と2014年の分布状況を比較すると,2014年は分布範囲が大幅に縮小した.とくに水田に隣接した区間で大部分の個体が消失し,畑に隣接する区間で個体が残存していた.2005年には流れの速い箇所でホソバミズヒキモと混生していたがここからは消失した.また本種は,2000年の発見時から今年度に至るまで,水の由来を異にするすべての排水路で確認され,本地域では水の由来によらず広く分布していることがわかった.参考文献持田誠、片桐浩司、高橋英樹,北海道におけるコバノヒルムシロの再発見と分布記録の整理,分類4巻1号,2004,p.41-48
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