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発表 湖沼周辺の水路における水生植物群落の保全について

作成年度 2014 年度
論文名 湖沼周辺の水路における水生植物群落の保全について
論文名(和訳)
論文副題
発表会 植生学会第19回大会
誌名 植生学会大会要旨集
巻・号・回
発表年月日 2014/10/17 ~ 2014/10/21
所属研究室/機関名 著者名(英名)
河川生態チーム片桐浩司
河川生態チーム大寄真弓
河川生態チーム萱場祐一
抄録
1. はじめに霞ヶ浦の湖岸堤防の背後には、全周にわたって堤脚水路が設置されている。水路内には、湖内ではみられなくなったエビモやマツモなど在来の沈水植物が生育し、これらの数少ない生育地のひとつとして機能している。しかし一方で、オオフサモなどの侵略的な外来水草が広範囲に分布し、これらの温床となっている可能性がある。本研究では、水生植物の分布を過年度と比較し、近年、堤脚水路における分布がどのように変化したかについて把握した。また植生と環境因子との対応から各種の生育特性を把握し、さらに周辺の土地利用、湖内における過去の水生植物の分布との対応から、近年の分布域の変化は何によって引き起こされたのかについて考察した。以上の考察をふまえ、堤脚水路の水草の保全について提言をおこなった。2. 方法霞ヶ浦西浦湖岸(122km) の堤脚水路を対象に、2013~2014年に水生植物の分布状況を調査し、これらを2009年の調査結果と比較した。また全60地点に調査方形区を設置し、植生と物理・化学的環境因子を計測した。各種の生育特性を明らかにするために、Canonical correspondence analysis (CCA) により植生と環境因子との対応関係を解析した。さらに周辺の土地利用(ハス田、水田、その他)、循環かんがいが行われている範囲、過年度の湖内における沈水植物の分布を文献と現地踏査により調査し、現況の堤脚水路における水生植物分布と重ねることで、これらの対応関係について把握した。3. 結果および考察(1) 水路における水生植物の分布状況と生育特性 最近4~5年間でとくに沈水植物の減少が著しく、在来種のエビモのほか、外来種のオオカナダモ、フサジュンサイも大きく減少し、多くは浮遊植物の群落などに遷移した。CCAダイアグラムから、トチカガミ、Azollaなどの浮遊植物は、富栄養化に関連する因子によって特徴づけられた。周辺の土地利用は大部分がハス田であった。外来種とヒシは、水深が浅く、pHとORPが低い還元的な環境として特徴づけられた。またササバモ、エビモなどの在来の沈水植物は、pHとORPがともに高い酸化的な環境として特徴づけられた。以上の結果から、現在、在来の沈水植物が生育する箇所は、還元的な環境へと変化することにより、外来種やヒシの優占群落へと遷移し、さらに富栄養化によりこれらが浮遊植物の群落へと遷移することが示唆された。また強い水流の発生する箇所や、水深の深い箇所では、水生植物群落が消失し、無植生となることが示唆された。 (2) 近年の沈水植物の消失はなぜ引き起こされたか? 1978年の湖内と、2009年および2013年の堤脚水路における沈水植物の分布を重ねると、堤脚水路の沈水植物分布域の沖合には、かつてほぼ例外なく沈水植物群落が成立していたことがわかった。湖と堤脚水路との水の交換は、機場を通じて両者の水位差によって自由に行われているため、湖内の沈水植物の種子や断片が堤脚水路に侵入することで、水路内に沈水植物群落が成立したと考えられる。これらのうち樹林やヨシ原に隣接する水路では、窒素、リン濃度が低く保たれており、現在もなおエビモなど在来の沈水植物群落が成立している。しかしハス田や民家に隣接する区間では、富栄養化することにより早い段階から無植生となるか浮遊植物の群落へと遷移した。さらに2009年以降は、湖内への富栄養化物質の流出を防止するじゅんかん灌漑が実施されることなどにより、水深の増加や過剰な泥の堆積、さらに水流の発生が引き起こされ、アサザや浮遊植物の群落、また無植生となることで沈水植物が消失したものと考えられる。 (3) 水路の管理と水生植物群落の保全今後はとくに灌漑期に、過剰な水流の発生や水深の増加が起こらないような水管理が必要となる。また泥が堆積した区間では、水草の生育期をさけ晩秋から冬季にかけて泥さらいを行う。こうした水路管理を提言することで、とくに湖内で消滅した沈水植物群落の保全に繋げていきたい。
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