種の分布箇所の保全を考えるうえで、流域や集水域などをふくめ広域的に分布情報を把握することは重要である。水生植物を扱ったこれまでの湖沼研究では、対象地は湖内に限られ、周辺域の分布・生育状況は調べられてこなかった。本研究では、霞ヶ浦の周囲に設置された堤脚水路(延長約121km)を対象に水生植物の分布を把握し、過去の湖内の植生分布、周辺の土地利用、環境因子との対応から植生分布を決定する要因について考察した。エビモなどの沈水植物の多くは、かつて隣接する湖内に沈水植物が分布したところに分布していた。湖岸提の築堤後、背後に新設された堤脚水路内に侵入することで群落を形成したと考えられる。すでに沈水植物群落は湖本体から消失しているため、堤脚水路は沈水植物の数少ない生育地として機能していることが示された。しかし同時にオオフサモ、ミズヒマワリなど侵略的な外来種の生育環境となっていた。環境条件との対応からは、沈水植物群落と浮葉植物群落はT-N濃度が低いグループに判別された。またCCAから、沈水植物群落の一部は、低栄養塩・水温、高DO・流速・水深と水田で特徴づけられた。最近4年間で沈水植物の生育箇所数は大幅に減少しており、生育地が富栄養、還元的な環境へと変化した可能性がある。また浮遊植物群落は高T-P・PO4-P・NO2-Nとハス田によって、外来植物群落は高NO3-N、低い泥厚と民家、コイ養殖場などの民地によって特徴づけられた。これらの結果から、生育地周辺の水田、ハス田、民地などの土地利用が水生植物の分布に影響を及ぼしていることが示唆された。本研究から、湖沼における水生植物の保全を検討する上で、広域的な分布情報を把握し、過去の分布や周辺の土地利用に着目することの重要性が示された。今後の湖沼の水生植物研究においては、歴史的、広域的な視点から種や群落の保全方針を検討していくことが必要である。 |