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発表 イタセンパラの保全に向けた木曽川におけるワンド群の修復

作成年度 2016 年度
論文名 イタセンパラの保全に向けた木曽川におけるワンド群の修復
論文名(和訳)
論文副題
発表会 2016年度 日本魚類学会 年会
誌名 2016年度日本魚類学会 年会
巻・号・回 9 
発表年月日 2016/09/23 ~ 2016/09/26
所属研究室/機関名 著者名(英名)
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター永山滋也
抄録
コイ科タナゴ亜科に属するイタセンパラは日本固有の純淡水魚であり、その分布は、琵琶湖淀川水系、富山県氷見市の仏生寺川・万尾川水系、濃尾平野の木曽川水系の3地域に限られ、国の天然記念物および国内希少野生動植物種に指定されている。生息地に関するこれまでの情報から、イタンセンパラの主な生息域は、沖積平野の自然堤防帯(氾濫原)と考えられ、かつては河川が作りだした広大な後背湿地の池沼やクリークを利用して生息していたと考えられる。しかし、現在のイタセンパラの生息環境は、淀川および木曽川では堤防間に挟まれた河川区域(堤外地)の一部に、また仏生寺川・万尾川水系では一部の農業用の水路に限定されており、絶滅が危惧されている。木曽川において、現在、イタセンパラが生息している環境は、河川近傍に形成された「ワンド」や「たまり」といった半止水域である。ワンドはその一部が本川流路と常に連結している水域であり、たまりは平常時において本川流路から孤立していて、増水時にのみ本川流路と連結する水域である。生息水域は、河口からの距離が26.0~41.0kmの区間に存在しており、沖積平野の地形区分で言うと、前述した自然堤防帯に含まれる。河川の勾配は1/4,000程度と緩やかである。26.0km地点には頭首工(木曽川大堰)が存在し、その堰上げ効果が生息区間の下流半分程度にまで及んでいる。生息区間には多数のワンドとたまりが存在する。その中でも、イタセンパラの産卵母貝となるイシガイは、常時本川流路と連結しているワンドや冠水頻度の高いたまりに生息している。イタセンパラは、イシガイが生息する水域の中でも、さらに限られたワンドやたまりでのみ、生息が確認される。結果的に、イタセンパラが確認される半止水域の割合は、全体の十数%程度となっている。これらのワンドやたまりは、1945年以降に限ってみても、時空間的に変化してきている。1970年代までの当該区間は、裸地状の砂州が広がり、本川流路は分岐と合流を繰り返す砂州河道であった。その頃までは、大きなワンドが多く、たまりは少なかった。しかし、1980年代以降、様々な人為の結果として、水が流れる澪筋の河床低下、澪筋と砂州であった陸域との比高の拡大が生じ、洪水による冠水や物理的攪乱の影響が小さくなった陸域には樹木が繁茂するようになった。こうした河川景観の変化は「陸域化」や「樹林化」などと呼ばれている。それに伴い、ワンド・たまりの存在様式も変化し、現在は、大きなワンドは少なく、小さなたまりが多数存在するようになった。澪筋と陸域との比高の拡大は、たまりにおける冠水頻度の低下をもたらし、イシガイとイタセンパラの生息可能性を低下させる。かつての砂州河道の中にあった大きなワンドや増水の度に形状や配置が変化するたまりが、イタセンパラに適した生息場となっていたかどうかは実際のところ分かってはいないが、1980年代以降のワンドの減少とたまりの冠水頻度の低下によって、イシガイとイタセンパラの生息環境は徐々に劣化し、生息水域も減少してきたと想定されている。木曽川では、イタセンパラの野生個体群を保全しようと、これまでのイシガイやイタセンパラの生息環境に関する知見に基づき、水域環境の改善や水域の創出を積極的に行い、生息可能な水域とエリアの拡大を図る自然再生事業が国土交通省によって進められている。本発表では、上述した木曽川の変化を含め、近年の自然再生事業の取組とその効果について、可能な限りデータを示しつつ紹介する。また、河川区域だけではなく、かつての氾濫原であった農地を含む、濃尾平野全体におけるイタセンパラ保全の展望についても議論したい。
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