土工構造物は,大規模に崩壊する場合にも緩やかに変形が進行する場合が多い.初期の段階ではのり面や路面の変形や亀裂等が発生し,これらの変状が時間をかけて進行し,最終的に崩壊に至ることが一般的である.これらの初期段階の変状を捉えて措置を講じることができれば,大規模な崩壊を防ぐことができる.また,数が膨大な事を考えれば現在直轄国道で行われているような1~3日に一回の日常的な点検で初期段階の変状を捉え対応する,事後対応的な維持管理を基本とすることが合理的である. 土工構造物の中でも補強土壁は,壁高の高いものや他の構造物と隣接する箇所での実績が増えており,平成23年の東北地方太平洋沖地震では,橋台背面アプローチ部に補強土壁を適用した箇所において,一部に段差が生じ通行が困難となった事例が見られたことなどから,立地条件等の重要度によっては早期に予防保全的な維持管理を取り入れる必要がある構造物と考えている.そこで,前述の通り点検で初期段階の変状を捉えて対応するこれまでの事後対応的な維持管理を基本としつつ,その後の対応から劣化シナリオを踏まえた予防保全的な維持管理を行うことを考えている1).この維持管理手法(以下,予防保全型維持管理)の確立には,補強土壁の劣化シナリオを明らかにする必要がある.また,劣化シナリオ上の事象をどのように検知するかが予防保全型維持管理に移行する鍵となる.本報では,補強土壁の劣化シナリオを示す。また,道路土工構造物の不具合の素因として多い排水不良に着目し,排水不良を素因とした劣化シナリオを模擬した実大模型実験の概要を示し,補強土壁の予防保全型維持管理手法について考察を示す. |