はじめに ダム下流における細粒土砂(砂や砂利など)の不足は、ダム下流の生物相を変化させる要因として世界的に注目を集めている。この土砂不足を解消する一つの手法として、ダム上流と下流をバイパストンネル(BT)でつなぎ、出水時に上流から下流へ土砂を流す試みが世界各地で行われ始めている。調査概要本研究では、2016年から天竜川水系小渋ダムで運用が開始された土砂BTによる下流への土砂供給が、河床環境と底生動物に及ぼす短期的な効果を検証した。2016年9月に発生した出水に合わせて、ダム上流から下流に土砂を含んだ濁水が通水された。調査は、小渋ダム上流(1地点)と下流(3地点)に加えて、リファレンスとしてダムがない遠山川(3地点)の計7地点で、運用前の2016年6・9月と運用後の2016年10月、2017年2月・6月の5時期に行った。各地点の瀬でコドラート(50×50cm)を3つ設置し、河床の粒径別土砂被覆度を計測したのち、底生動物を採取して分類群数・個体数を計測した。結果・考察注目する小粒径の土砂(砂:<2mm、砂利: 2-16mm)の被覆度及び分類群数を対象に、調査時期と地点区分を説明変数にして、多重比較による検定を行った結果、砂は時期・区分ともに違いはなく、砂利は運用前後とダム下流-リファレンス間で差が見られた(P<0.05)。分類群数はダム下流において9月から10月にかけて減少が確認されたが、その後回復傾向を示した。つぎに、細粒土砂被覆度に対する底生動物の応答を明らかにするため、砂被覆度または砂利被覆度と分類群数との関係性を一般化線形混合モデルで検証した。その結果、全地点を含めた関係性では被覆度との関係性は示さなかったが、リファレンス地点のみでは、砂被覆度と負の関係性、砂利被覆度と凸型の関係性を示した。一方で、ダム下流地点は、砂被覆度と正、砂利被覆度と負の関係性を示した。このようにダム下流とリファレンスでは細粒土砂に対する底生動物の応答は異なっており、土砂を供給してもすぐには自然河川の生物相に変化しないことが示された。発表当日は、いくつかの種ごとの応答も示し、ダム下流で減少した種、増加した種、今後増えることが予想される種に関して考察を行う。 |