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発表 ダムによって分断された生息域サイズと魚類相の関係性

作成年度 2017 年度
論文名 ダムによって分断された生息域サイズと魚類相の関係性
論文名(和訳)
論文副題
発表会 陸水学会東海陸水支部第20回研究発表会
誌名 陸水学会東海陸水支部第20回研究発表会
巻・号・回  
発表年月日 2018/02/17 ~ 2018/02/18
所属研究室/機関名 著者名(英名)
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター末吉正尚
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター小野田幸生
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター森照貴
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター宮川幸雄
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター萱場祐一
抄録
1. はじめにダムによる河川の分断化は、河川性魚類の個体群縮小を引き起こす主要因として世界中で問題視されている。日本においても、約2,800基の大ダム(堤高15 m以上)が全国の河川に存在しており、縦断方向に短く分断している。ダムによって上流に孤立した魚類は生息域の縮小や遺伝的な要因によって、局所絶滅する可能性が高まる。実際に、渓流性のサケ科では孤立した河川の長さが数km未満、海外のコイ科魚類では約100km未満になると個体群の絶滅が引き起こされることが報告されている。しかしながら、孤立した生息域のサイズと個体群の絶滅の関係性に関する報告は上記の一部の種に限られており、大ダムが主に分布する中流域の魚類に関する知見は非常に少ない。そこで、本研究では、主に中流域を対象として、大ダムによる分断化の影響を受けやすい魚種を明らかにすることを目的として、河川水辺の国勢調査で得られた魚類データと大ダムの位置データから、孤立生息域のサイズと魚類の在不在との関係性を検証した。2.材料と方法ダム上流に孤立した魚類を対象とした解析を行うため、1990-2010年に中部地方で実施された河川水辺の国勢調査のうち、ダム上流で行われた魚類データを抽出した。データは、下流にのみダムがある地点と上下流をダムで挟まれた地点の2種に分けられた。魚類の分布に対する生息域サイズの指標として、以下の2つの河川の長さを算出した。Ⅰダム湖流入点から源流もしくは上流のダムまでの流路の長さ(主流路長)、Ⅱダム上流の全流路の長さ(総流路長)。ダム湖は、一部の流水性魚類にとって生息・移動に不適な障害となる可能性があり、その場合に利用可能な生息域はⅠの主流路長のみと考えられる。一方で、ダム湖を利用可能な種にとってはダム湖を含むⅡの総流路長が生息域となりうる。生息域サイズ以外に魚類の分布に影響する要因として、分断されてからの経過年数、上流のダムの有無、調査地点の標高、河川規模(流域面積)、勾配をそれぞれ算出した。上記の生息域サイズおよび環境要因を説明変数、各魚種の在不在を目的変数として、一般化線形モデル(GLM)を構築した。3.結果と考察GLMによる解析の結果、種によって分布に影響を及ぼす生息域サイズの指標は異なる傾向が示された。アマゴなどの渓流域に生息する種は、大ダムによる分断化の影響を示さなかった。渓流性サケ類は非常に短い流路長でも個体群を維持できることが報告されている。また、本研究で対象としたダムが主に中流からやや上流に位置する大ダムであり、これらの種が生息する渓流域への影響は小さかったと予想される。一方で、アカザやカワヨシノボリ、カマツカ、オイカワなどの生息確率はいずれかの生息域サイズと正の相関を示し、分断化による影響が示唆された。アカザやカワヨシノボリ、カマツカはダム湖を含まない主流路長(Ⅰ)が、オイカワなどはダム湖を含めた総流路長(Ⅱ)が長いほど生息確率が増加した。オイカワはダム湖でも生息が確認されており、ダム湖を経由した全河川が生息域として個体維持に貢献していたと考えられる。このように大ダムによって上流に孤立した魚類は、ダム上流の生息域(河川の長さ)が小さくなると消失する傾向が見られ、これまで報告例の少なかった中流域に主に生息する魚類も影響を受けることが示唆された。特に、ダム湖が移動阻害となる可能性が示されたアカザなどの種はよりダムによる分断化の影響を受けやすいと考えられる。
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