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発表 山体崩壊による大規模撹乱と渓流魚:避難場所としての支流の重要性

作成年度 2017 年度
論文名 山体崩壊による大規模撹乱と渓流魚:避難場所としての支流の重要性
論文名(和訳)
論文副題
発表会 日本陸水学会第82回大会
誌名 日本陸水学会第82回大会
巻・号・回  
発表年月日 2017/09/28 ~ 2017/10/01
所属研究室/機関名 著者名(英名)
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター小野田幸生
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ河川生態チーム萱場祐一
抄録
1.はじめに 山地河川は勾配が高く土石流等の大規模撹乱にさらされるため、魚類の生息場所は不安定になりやすい。特に火山がある場合には、火山噴出物で地盤が脆弱で山地崩壊が多く、撹乱規模や頻度が大きくなる傾向にある。しかしながら、山地河川には支流が多く、それらが大規模撹乱からの避難場として機能する可能性が考えられる。その機能の実態解明は、山地河川の魚類群集の維持機構の理解のため必要であるが、撹乱に対する魚類の応答とその後の変化についてのデータセットは少なく、その検証は困難であった。今回、幸いにして大規模撹乱(1984年長野県西部地震に伴う山体崩壊“伝上崩れ”)によって、伝上川で絶滅したと報告されていたイワナ(武田1985)を、支流合流点付近で再発見したので(Onoda 2016)、その周辺でイワナ個体群を比較することによって、大規模撹乱からの避難場としての支流の効果を検証した。2.材料と方法 御嶽山南麓を流れる伝上川(流域面積8.52 km2)とその左岸に流入する支流(1.95 km2)で合計5地点(伝上川2地点、支流3地点)を設定し、流程に沿ってイワナのセンサスを行った。各調査地点には、イワナの潜在的な生息環境となる約20cm以上の水深の淵が含まれるようにした(柳生2009)。なお、各調査地点は伝上川本川と支流の合流点以外、治山ダム等で仕切られている。イワナのセンサスは2016年9月15、16日に、シュノーケリングによって行った。観察時間は魚類密度に応じて15分あるいは30分間とした。相対密度は、単位時間当たりの観察数(CPUE)で評価した。体サイズは水中目視によって5cm単位で読み取り、亜種名は体表の色や模様によって同定した。3.結果と考察 全部で27個体のイワナが観察され、その全てがヤマトイワナと同定された。確認された地点は水深が30 cm以上の落ち込み型の淵であった。確認個体の多くは、支流で確認され、上流ほどCPUEが多かった。伝上川の2地点でも水深が30 cm以上の淵があったが、支流の合流点の下流側では2個体が確認され、上流側では確認されなかった。多くの調査地点の間に治山ダム等があり、流下による移入が主であることを合わせて考慮すると、調査対象の支流がソース個体群であると考えられる。さらに、伝上川本川と比べて、支流の個体群の体サイズは幅広いサイズで構成されたことから、支流の個体群は再生産を通じて維持されてきたと考えられる。この支流は伝上崩れの流下範囲の周縁部に位置し影響が少なかったと考えられ、そこで維持されてきたイワナ個体群は伝上川全体の個体群の供給源として、今後の再生に重要な役割を果たすと考えられる。このように、山地河川における支流は、渓流魚に撹乱からの忌避場所や、その後の分布拡大の機会を提供することで、撹乱の影響を回避・緩和するのに役立つと考えられる。
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