国立研究開発法人土木研究所

論文・刊行物検索

利用者の方へ

詳細情報

発表 濁川水系のイワナの局所的な分布

作成年度 2017 年度
論文名 濁川水系のイワナの局所的な分布
論文名(和訳)
論文副題
発表会 日本陸水学会東海支部会研究班 第1回調査報告会
誌名
巻・号・回  
発表年月日 2018/02/19
所属研究室/機関名 著者名(英名)
国立研究開発法人土木研究所水環境研究グループ自然共生研究センター小野田幸生
抄録
1.はじめに河川の上流域は多くの支川によって形成され、それらは様々な水質環境や攪乱体制を有する。特に、流域に火山を有する河川では、隣接する支川間でも環境が大きく異なる場合がある。ときに、極端に異質な水質や高強度の攪乱体制を有する支川では、魚類の生息が制限されることもある。そのため、異なる水質環境・攪乱体制を有する支川を含めて、魚類の分布を集中的に調べることは、魚類の地域個体群の形成機構を理解する一助になると考えられる。しかしながら、上記の視点で上流域の魚類群集を比較した研究はほとんど見られない。そこで、本研究では流域に火山を有し、酸性度と攪乱体制の異なる支川を含む流域で、集中的な魚類調査を行い、上流域における魚類の個体群形成に及ぼす影響を検証した。2.方法調査地点は活火山である御嶽山の南麓に位置する王滝川水系の濁川流域に設定した。濁川は伝上川と濁沢で形成され、それぞれの支川はさらに小さな支川や沢を有する。濁川水系は基本的に酸性度が高いが、濁川の一枝沢では酸性度が低い。また、伝上川とその支川でも酸性度が低い。一方、伝上川のほぼ全域と濁川の一部は、山体崩壊「伝上崩れ」による大規模な土砂流入にみまわれた攪乱履歴を有する。上記に基づき、酸性度と攪乱体制の様々な組み合わせとなるように、調査地点を設定した。魚類センサスは、Onoda (2016)およびOnoda & Kayaba (2016)の方法に従って実施した。すなわち、調査地点の優占魚種と考えられるイワナの潜在的な生息環境として、水深20cm以上の水域を対象にシュノーケリングで潜水目視観察を行った。各調査地点における観察時間は90分までの範囲で、探索可能な広さや魚類密度により調整した。3.結果と考察調査を通じて、イワナ1種、67個体が確認された。イワナが確認された範囲は、伝上川の一枝沢とその合流点から濁川合流点付近までの区間と、濁川の一枝沢に限られた。イワナが確認された区間は、いずれも酸性度が低かったことから、水質条件によってイワナの生息が制限されたことを伺わせる。実際、伝上川と濁川の合流点では、濁川の水の流入地点(河床の赤色から推定)を境に、その下流側でイワナが確認されなかったことも,濁川の水質がイワナの分布を制限することを支持すると考えられる。ただし,イワナの確認されなかった濁川では金属イオンも多いことが知られており,イワナの生息を制限すると考えられる水質条件の詳細については,慎重な判断が必要とされる。酸性度が低くてもイワナが確認されなかった濁川の一支流は,伝上崩れの影響範囲と重なっていた。この支流で以前にイワナが生息していたかは不明であるが、たとえイワナが生息できる水質条件であったとしても、大規模撹乱の影響を受けて絶滅したと考えられる。また、酸性度が低い伝上川でも、イワナが確認された一枝沢の合流点よりも上流側ではイワナが見られなかった。このことは、伝上崩れの影響を免れた個体群が流下することにより、その分布を広げたためと考えられる。以上の事から、火山活動が活発な地域では、イワナの分布が、水質条件だけでなく、大規模な攪乱の影響によっても制約を受けていると考えられる。
ページの先頭へ

この画面を閉じる

Copyright (C) 2022 Independent Administrative Institution Public Works Research Institute