1.はじめに 河川環境は,水域を利用する鳥類にとって繁殖や採餌,休息(渡りの際の中継地),越冬といった生活史の中で利用される重要な場所である.これらの鳥類種には,生態ピラミッドの上位に位置するものが多く含まれていることもあり,河川環境の健全性を評価する際の有力な指標分類群となることが期待されている.しかしながら,砂礫帯の樹林化や干潟・湿地の消失等に代表される河川環境の変化により,河川水域を利用する鳥類の生息環境は,日本の各地で急速に失われている.本研究では,河川性鳥類のうち,世界的にも減少が指摘されている渉禽類を対象に,河川水辺の国勢調査の鳥類調査結果を用いることで、近年の出現傾向を把握することを目的とした.2.調査地 鳥類の生活史や生態に関する既存研究を踏まえ,日本国内に生息する鳥類のうち,迷鳥や外来種を除く,89種の渉禽類を今回の解析対象とした.全国の109ある一級水系を対象とした河川水辺の国勢調査の鳥類調査結果のうち,第1巡目調査から第4巡目までの結果を利用した.まず,出現した渉禽類全体の累積種数を,水系ごとに計数した.また, 第4巡目の結果における各渉禽類の出現傾向を,①第4巡目で初めて出現,②過去のいずれかの巡目に出現し,4巡目も出現,③過去のいずれかに出現したが,4巡目では出現せずの3段階で評価した.なお,河川水辺の国勢調査では,3巡目までのラインセンサス調査から,4巡目以降はスポットセンサス調査へと調査方法が変更されているため,本研究では,各渉禽類の個体数データを扱わなかった.3.結果と考察河川水辺の国勢調査で出現した渉禽類種は,計78種であったが,これらの内訳は,シギ科36種,サギ科15種,チドリ科10種,クイナ科7種,ツル科4種,トキ科3種,セイタカシギ科,タマシギ科,コウノトリ科がそれぞれ1種となっていた.渉禽類の累積種数については,九州地方の水系で顕著に多い傾向があった.各渉禽類の近年の出現傾向について,シギ類(シギ科,セイタカシギ科,タマシギ科)を例にとると,38種のうち,28種については,過去の巡目で確認されていた水系の50 %以上で4巡目に確認されていないことが明かになった.これらのシギ類には,沿岸部の干潟利用種だけではなく,内陸の湿地を主に利用するタイプの種も多数含まれており,河川域もしくは河川周辺域におけるシギ類が利用可能な湿地環境が減少している可能性が示唆された.また,その他のサギ科やチドリ科,クイナ科においても,近年の顕著な減少傾向がみとめられる種が存在した.これらの種についても,その減少要因には,湿生植物帯や自然裸地面積の減少などの河川環境の変化が関わっている可能性が推察された. |