演者らはこれまで滋賀県の中山間部と平野部の水田において,水管理が水生動物群集に及ぼす影響を調査してきた.本講演では,①冬期湛水,②中干し,③湿田と水生動物群集との関係について,話題提供する.① 冬期湛水 演者らの調査では,冬期湛水をしていない水田に比べると,冬期湛水田では特に7月から8月の作付期の後半に水生昆虫類の個体数の増加が顕著となっていた.その理由として,冬期湛水田では慣行的な水管理の水田に比べて湛水期間が長期に渡るため,安定的な水域が維持されることや,多種の水生昆虫の餌となる水生ミミズ類やユスリカ科幼虫などが豊富だったことなどが考えられる.その一方で,ドジョウやアカネ属の個体数は,冬期湛水田において少なく,餌動物の減少や捕食圧などがその要因の一つと考えらえた.② 中干し 中干しを実施せず,作付期間中継続的に湛水する水田(以下,非中干し田)で調査を実施した.この水田では,周辺の慣行田で中干しを実施する時期(調査地の滋賀県では6月20日前後)以降,水生動物群集の多様性が増加していた.非中干し田では,中干し期以降に出現する水生動物が多かった.このように非中干し田は,湛水期間の長期化によって,様々な生活史を持つ水生動物の利用を可能にする.また,中干しを実施した水田よりも繁殖する機会が増加したり,非中干し田そのものが他の水田で水がない時期の避難場所としての役割を果たしたりすることで,高い生物多様性が保たれているものと考えられた.③ 湿田 筆者らは滋賀県高島市の中山間部にある「ひよせ(用水である河川水を迂回させて温めたり,水田の水位を調節したりするため,水田内に造成された素掘りの承水路)」付きの湿田において,作付期および非作付期を通して水生動物群集の生息状況を調査した.その結果,大きく分けて1) 非作付期に湿田に残る水域,2) ひよせと湿田の環境の違い,3) 隣接したひよせと湿田の往来,の3つの要因が水生動物群集の保全に寄与していることが明らかになった. |