コウノトリの野生復帰の拠点である兵庫県豊岡盆地では,コウノトリの主要な採餌環境となる河川域や水田水域において,多様な生物群集の生息環境を保全するため,農家,行政,NPOなどの協同で,様々な自然再生が進められている.これらの自然再生の中では,水田域および河川域における湿地環境の整備が大きなテーマの一つとなっている.水田域では,休耕田や放棄田を周年湛水し,湿地環境を造成する取り組みが市内の約30か所で実施されている.これらの湿地は,「水田ビオトープ」と呼称され,湿地性動物群の生息場所や野外コウノトリの採餌環境となることが期待されるとともに,自然観察会等の環境学習の場としても大いに活用されている.また,水田では,兵庫県の「コウノトリ育む農法」の取り組みにより,水生動物の生活史に合わせた中干しの延期,「マルチトープ」と呼ばれる水田脇の承水路の設置,水田魚道の設置などが実施されている.「コウノトリ育む農法」に取り組む水田面積は,取り組み初年度2003年の約0.7 haから,2016年には約366 haにまで,年々増加をみせている.しかしながら,これらの自然再生事業の取り組みに関するモニタリングは魚類,植物などの一部の特定の分類群を対象としたものに限定されており,未解明な点が多い.そこで,演者らは水田ビオトープやマルチトープにおいて,水生動物群集を対象とした,定量的な生息状況調査を実施した. 調査の結果,水田ビオトープやマルチトープは,水生コウチュウ目やカエル類などの水生動物にとって,重要な生息・繁殖場所となっていることが示された.また,野外コウノトリも,厳冬期を含めて水田ビオトープを頻繁に採餌場所として利用していることが明らかになった.これらの結果を元に,各自然再生湿地の有する水生動物群集の保全機能および野外コウノトリの生息に及ぼす効果について検討する. |