国立研究開発法人土木研究所

論文・刊行物検索

利用者の方へ

詳細情報

論文投稿 水生生物の生息環境を指標する「さとがわ指数」の開発とその応用―魚類の分布解析を例に―

作成年度 2021 年度
論文名 水生生物の生息環境を指標する「さとがわ指数」の開発とその応用―魚類の分布解析を例に―
論文名(和訳)
論文副題
発表会 応用生態工学会 第 24 回大会
誌名 応用生態工学会 第 24 回大会
巻・号・回  
発表年月日 2021/09/22 ~ 2021/09/24
所属研究室/機関名 著者名(英名)
自然共生研究センター東川航
自然共生研究センター末吉正尚
自然共生研究センター森照貴
岐阜県水産研究所米倉竜次
自然共生研究センター中村圭吾
抄録
1. はじめに河川、池沼、湿地といった種々の陸水環境が流域のどこにどれだけ存在するのかという空間条件は、水生生物の局地的な多様性を決定づける大きな要因の一つである。近年では、治水対策においても生息場の再生や保全の観点が導入され始めており、水域の空間条件を普遍的に把握するためのツールが必要とされている。Kadoya et al.(2011)が開発した「さとやま指数(SI)」は、植生図を基に分類した土地利用の多様度を地図化したものであり、地域ごとに生息場の多様性を評価できる汎用的な指標である。一方、SIは陸水環境をほとんど分類せずに扱うため、水域の多様性を評価するには不適と考えられる。そこで本研究では、国内の陸水環境について公開された各種のGISデータを利用して、水域の局地的な多様性を反映する「さとがわ指数(SGI)」を開発した。また、木曽三川流域の小河川および農業用水路における魚類分布の調査データを用いて、SGIと魚類種数の関係を検証した。2. 調査方法①「さとがわ指数(SGI)」木曽三川流域に対応する3次メッシュの各セルについて、各種のGISデータから得た5つの陸水環境カテゴリー(河川、池沼、湖、自然湿地、水田)の面積および周囲長を算出し、それらを用いた下式によりSGIを求めた。SGI= 1/2[SDI(1-p_U )+{1 - 1/((Edge+1) )}]SDI : シンプソンの多様度指数 (1- ∑_(i=1)^n?p_i^2 ) (各土地利用の面積割合の二乗(p2)の和を1から引いたもの)p_U: 都市部の面積割合Edge : 各水域の周囲長と一級・二級以外の河川長の合計(km)②魚類分布の調査と統計解析2010年から2020年にかけて、木曽三川流域の小河川および農業用水路における魚類の分布を調査した。各調査地点において、代表的な生息場(瀬淵)を網羅する調査区を設定し、水域ごとに適切な手法(電気ショッカー、投網、たも網等)により魚類を採捕した。得られた魚類の種と個体数を記録し、在来種のデータを次の統計解析に利用した。セルごとの種数に対するSGIの効果を、一般化線形混合モデル(GLMM)により解析した。1つのセルに複数の調査地点が含まれる場合は、希薄化(Rarefaction)により1地点分の推定種数を算出して統計解析に用いた。3. 結果 濃尾平野のSGI(0 ~ 0.77)と魚類調査の地点を図1に示した。魚類の分布調査により、44種(流水性35種、半止水性9種)の在来種が確認された。GLMMによる統計解析の結果、SGIは魚類種数に対し正の効果をもつことが確認された(図2)。4. 考察「さとがわ指数(SGI)」は、丘陵部から平野部では陸水環境の面的な多様性の豊かな場所において高く、地域内でも標高が多様な山間部では、河川網が発達した場所において高くなる傾向が認められた。そうした地域には、半止水性(平野部)または渓流性(山間部)の希少種が分布する場合が多く、SGIはそれをよく反映したものと考えられる。SGIは、魚類の他にトンボ類の成虫の種数とも相関することから、水生生物の多様性を空間的に把握することのできる汎用的な指標として期待できよう。SGIを活用すれば、生態系ネットワークの保全・再生を視野に入れた生息場の管理やデザインについても、より具体的に議論することが可能となろう。SGIを植生等に関する他の指標と重ね合わせることで、流域の多角的な管理にも役立つ可能性がある。
ページの先頭へ

この画面を閉じる

Copyright (C) 2022 Independent Administrative Institution Public Works Research Institute