生物多様性の現状把握と保全への取組みに対する社会的要求が高まる一方、河川を含む淡水域の生物多様性は急激に減少している可能性がある。生態系の復元や修復を実施する際、目標を設定することの重要性が指摘されており、過去の生息範囲や分布情報をもとにすることは有効な方法の一つである。そこで、本研究では1978年に実施された自然環境保全基礎調査(緑の国勢調査)と1990年から継続されている河川水辺の国勢調査を整理し、1978年の時点では記録があるにも関わらず、1990年以降、一度も採取されていない淡水魚類を「失われた種リスト」として特定することを目的とした。109ある一級水系のうち、102の水系で二つの調査結果を比較することができ、緑の国勢調査で記録されている一方、河川水辺の国勢調査での採取されていない在来魚は、全国のデータをまとめるとヒナモロコとムサシトミヨの2種であった。比較を行った102水系のうち、39の水系では緑の国勢調査で記載があった全ての在来種が河川水辺の国勢調査で採取されていた。一方、63の水系については、1から10の種・種群が採取されていないことが明らかとなった。リストに挙がった種は水系によって様々であったが、国や県のレッドリストに掲載されていない普通種も多く、純淡水魚だけでなく回遊魚や周縁性淡水魚も多くみられた。水系単位での局所絶滅に至る前に「失われた種リスト」の魚種を発見し保全策を講じる必要があるだろう。そして、河川生態系の復元や修復を実施する際には、これら魚種の生息環境や生活史に関する情報をもとにすることで、明確な目標を立てることが可能であろう。 |