河川堤防の決壊の原因としては,大きくは越水による侵食(以下,越水),河川 側からの侵食,浸透の3つに分けられる。これまでの多くの決壊箇所の原因は, 越水とされている。例えば,令和元年東日本台風では直轄管理区間・県管理区間 合わせ142箇所の決壊が発生し,このうち122箇所が越水とされている1)。決壊箇 所では決壊の原因となった堤体や基礎地盤が流出してしまうため,決壊原因の究 明が難しい。痕跡水位や決壊箇所の周辺堤防の状況から越水していることが確認 されると,越水が主要因と判断されているのが多くの箇所における実情だと推測 される。したがって,越水が主要因とされている箇所の中には,浸透が大きく影 響した箇所も含まれている可能性がある。また,浸透により決壊に至った事例と しては,古くは1976年の長良川の決壊2)や比較的新しいところでは2012年の矢部 川の決壊3)などがあり,最近では県管理区間も併せればほぼ毎年のように浸透に よる決壊が発生している。また,越水,侵食,浸透の大きな分類の中にも,様々 な被災メカニズムがある。このため,被災メカニズムの解明を目的とした調査・ 検討を実施する際には,越水だけではなく,侵食や浸透による被災メカニズムを 幅広くかつ詳細に把握しておく必要がある。本報では,河川堤防の被災メカニズムの多様性を示す越水と浸透による4つの被 災事例と被災メカニズムを紹介する。 |