環境中に存在するDNAを分析することで生物の分布情報を得ようとする環境DNA技術が近年急速に発展している.環境DNA調査は,種内の遺伝子型まで特定できる点において捕獲調査よりも優位であり,遺伝的多様性の評価・生息場評価,国内外来種の早期発見などへの応用が期待される.しかし,MiFish系のプライマーで増幅される領域は12s rRNAの平均173bpの領域であり,遺伝的多様性を評価する際に一般に扱われる領域よりも短く解像度が低いことが想定される上,実践的な知見の集積は進んでいない.そこで本研究では,MiFish系プライマーで得られる領域の種内変異を様々な魚種で比較し,遺伝的多様性評価の可能性を検討することを目的とした.全国の22水系402地点において,1Lの採水を行いMiFish系のプライマーを用いて環境DNAメタバーコーディングを行い,魚類相とハプロタイプを調べた.ハプロタイプの最も多い魚類は,ウグイで191地点から70ハプロタイプが検出され,次いで,オイカワが40(248地点),アユが38(192地点),カワムツが33(211地点),カジカ大卵型は32(95地点)であった.特に荒川水系の42地点のハプロタイプ数に着目したところ,ウグイは本川中流域で最大7,オイカワは中流域の支川で最大5,カジカ大卵型は上流域の山地河川で最大3確認され,各種の主な分布域で高かった.一方で,アユおよび国内外来種であるカワムツは各1ハプロタイプのみ確認され,遺伝的多様性が低かった.今後,「河川水辺の国勢調査」への環境DNA導入が進むにあたり,種の分布情報のみでなく遺伝的多様性の空間的・時間的変化を把握できるデータとして,河川管理への活用が期待される. |