水田とその周辺の農業水路やため池などから成る水田水域は,近代まで生物多様性の高い空間であった.しかし,全国的な傾向として,戦後の強毒性農薬の使用や1960年代から本格化した圃場整備事業による水域間の連続性消失,中山間部での耕作放棄の進行等により,水田水域における生物多様性は大幅に低下した.そうした中,減・無農薬栽培や湿田および未整備の水田の特性を生かした工法と農法の導入など,1990年代から各地で水田の生物多様性保全に着目した様々な取り組みが実施され,その効果が期待されている.農業水路やビオトープ,承水路といった生物の生息場に着目した昨年の集会では,実際の農業の現場で,どのように保全をすすめていくかが大きな議論となり,コウノトリやトキといったシンボリックな種が生息していない地域の水田における保全の進め方が大きなトピックスとなった.これらを踏まえ,今年度は,様々な立場の演者の方々に,本来の水田が有している生き物のすみかとしての役割や,現在の現場で起こっている問題などに関して発表いただく.各演者の考える保全策をもとに,水田水域における生物の保全を将来的にどのような手段で進めていくべきかについて活発な議論を期待したい. |